一般社団法人 地域創造

石川県小松市 第18回全国子供歌舞伎フェスティバルin小松

 5月4日、5日、18回目を迎えた「全国子供歌舞伎フェスティバルin小松」が開催され、石川県小松市のこまつ芸術劇場うららは拍手と歓声に沸いた。1999年にスタートしたこの催しは、各地の子供歌舞伎の継承団体を招くとともに、稽古を重ねた市内の子供たちが恒例の『歌舞伎十八番の内 勧進帳』を披露するというものだ。
  4日に取材に訪れると、子供たちによる見事な口上に続き、山・臼子歌舞伎保存会が『番町皿屋敷 青山家座敷の場』、小原歌舞伎保存会が『稚児揃蘇我の敷皮 由比ヶ浜』を上演。そして締め括りとなる勧進帳の緞帳が上がると、舞台一杯の松羽目を背に、長唄・三味線・囃子方がズラリと並んでいた。驚くことにそのほとんどが子供たちで、小学5年から高校3年の23人が、大人7人と共に芝居を盛り立てた。笠を目深に被りうずくまる義経も、渡り合う富樫と弁慶も堂々たる演技で、弁慶は飛び六方で花道を引っ込み、見事に75分を演じ切った。

 子供が役者を務める歌舞伎は各地にあるが、祭礼時に市中を引き回す曳山を舞台に演じるのは数カ所だけだ。小松市には「お旅まつり」(*1)で上演する曳山子供歌舞伎が代々継承され、その誕生から今年で250年目を迎えた。
  歌舞伎によるまちづくりを所管する文化創造課課長(小松市経済観光部長兼務)望月精司さんは、「98年に市では“小松が全国に発信すべきまちおこしのテーマ”について市民アンケートを実施しました。その結果が、1位のお旅まつりと曳山子供歌舞伎、2位の安宅の関(*2)と『勧進帳』でした。それで市民みんなが認める小松の魅力である子供歌舞伎と勧進帳をコラボした企画で地域おこしをしようと、“歌舞伎のまち”の推進が始まりました」と振り返る。
  曳山子供歌舞伎は、曳山をもつ8町の小学4~6年生の女児しか基本的に演じられないため、フェスティバルでは市内の小学4~6年の男女に門戸を開いた。役者11人に口上役2人を入れ、13人をオーディションで選ぶ。今年の役者は昨年12月から週2日の全員稽古、三役はほかに週に2日、指導者の寺島浩さんから稽古を受けた。
  18年間、長唄囃子方指導を行い(今回は小鼓方で出演)、昨年から演技指導も担当している寺島さんは中学校の元国語教諭で能楽の愛好家。86年から続いている市立中学10校が持ち回りで勧進帳を上演する「中学校古典教室」(*3)の第1回を市立南部中学校時代に指導して以来、長年子供歌舞伎に関わってきた。
  「87年に義経主従が安宅の関を通過した800年を記念して『勧進帳小松800年祭』が行われるのを機に中学校古典教室がスタートしました。800年祭では十二代目市川團十郎さんが弁慶を演じた勧進帳が上演され、それが大きな弾みになりました」と寺島さん。以来、團十郎は何度も小松を訪れて子供たちを直接指導し、フェスティバルの顧問も務めた。

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上:「勧進帳」の舞台/下:出演した子供たち

 今年の三役、増子絢香さん(弁慶)、依田晴奈さん(富樫)、杉本陽香さん(義経)は4、5年生から勧進帳に出演した仲良しだ。「台詞を覚えるのが大変だった」「長袴なので難しい」「動かずにじっとしているのが大変」と言いながら、「歌舞伎をやるのが楽しいので、来年からは後見として舞台のお手伝いをしたい」と声を揃える。
  子供たちの成長に対し、課題になったのが大人になっても歌舞伎が続けられる環境づくりだ。望月さんは、「市はこの5年間、予算も人力も投入してオール小松で歌舞伎を支え、子供を育てるシステムづくりを目指してきた」と言う。
  2010年から「こまつ歌舞伎未来塾」(歌舞伎、能楽、邦楽、義太夫の4教室)を開講し、これまでに延べ300人が受講。13年に稽古場にもなる体験型展示施設「こまつ曳山交流館みよっさ」が開館。15年には市川宗家に依頼し、大人の歌舞伎講座「小松市民歌舞伎」を立ち上げ、市川ぼたんと市川新蔵を講師に迎える体制も出来た。また、同年に稽古代などを支援する「こまつ伝統芸能人材育成奨励金制度」を創設し、11年に設立した「こまつ曳山&歌舞伎ッズ倶楽部」(資金や裏方サポート)とともに継承者を育てる仕組みも整った。とはいえ、伝統芸能指導者の後継者育成には10年、20年かかる。まちぐるみで歌舞伎に向き合う小松の展開に期待が膨らむ。

(ジャーナリスト・奈良部和美)

 

●第18回全国子供歌舞伎フェスティバルin小松
[会期]2016年5月4日、5日
[会場]石川県こまつ芸術劇場うらら
[主催]石川県小松市、全国子供歌舞伎フェスティバルin小松実行委員会、小松商工会議所
[出演]新城 山・臼子歌舞伎保存会(愛知県新城市)、小原歌舞伎保存会(愛知県豊田市)、石川県小松市子供歌舞伎「勧進帳」実行委員会

*1 5月中旬に行われる莵橋神社と本折日吉神社の祭礼。江戸時代、加賀絹の生産・販売で財を成した町人が長浜に倣って豪華な曳山を建造し、曳山子供歌舞伎が始まった。最盛期には18基あったと言われるが、現在は8町8基(毎年2町が上演)。曳山子供歌舞伎は小松市、福島県南会津町、埼玉県小鹿野町、福井県美浜町、滋賀県長浜市、米原市、岐阜県垂井町、揖斐川町、富山県砺波市が定期的に行う。

*2 現在の小松市安宅住吉神社の海側の松林の中に関所跡の碑がある。安宅の関を含め、歌舞伎関連の文化が「平成の世の歴史物語が息づく歌舞伎のまち・小松」として2015年度に石川県が制定した「いしかわ歴史遺産」に認定された。

*3 市内全中学生を対象にした事業。1986年にスタート。市立10校が持ち回りで勧進帳を上演し、他校の生徒に見せる。役者、長唄、囃子、大道具、化粧、着付け、プログラムなど舞台に関わる一切を中学生が担当し、秋に発表する。

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