一般社団法人 地域創造

令和5年度「公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)」全体研修会報告

左上:多田淳之介さんのワークショップ
右上:「おんかつから始まるホールと地域の未来」(大澤寅雄さん)
左下:登録アーティストプレゼンテーション(西村悟さん)
右下:登録アーティストプレゼンテーション(今田篤さん)

 公共ホール音楽活性化事業(おんかつ)では、実施館の担当者、コーディネーターや登録アーティストが一堂に会する全体研修会を実施しています。今年度は4月17日から19日まで地域創造会議室とトッパンホールを会場にして開催されました。今回は登録アーティストも入れ替わり、23年度から2カ年にわたって活動する新規登録アーティスト7組・11名による公開プレゼンテーションが行われました(コロナ禍により2020-2022年度登録アーティストは登録期間を1年延長)。

研修ではワークショップも実施

 研修初日には地域創造会議室を会場にしたコミュニケーション・ワークショップが対面で行われました。今回のファシリテーターは、地域での参加型演劇で豊富な経験をもち、地域創造のリージョナルシアター事業派遣アーティストであり、今年度からおんかつコーディネーターに就任した演出家の多田淳之介さんです。多田さんは、身体を使った簡単なゲームをやりながら「無駄なこと、失敗することを楽しんでほしい」とひと言。その後、短い時間で演技について即席で体感してもらうオリジナル・ゲーム(グループに別れて1分間シリトリを行い、そこでのやりとりを思い出しながら台本を作成し、自分で自分の役などをリアルに再現する)を行いました。
 また、おんかつアドバイザーを務める大澤寅雄さん(ニッセイ基礎研究所)による講義も行われました。大澤さんは、戦後から現在までの大まかな文化政策の流れを解説するとともに、これからの公立ホールの担い手に求められることとして「事業の自己評価と説明」「組織内外の協働・連携」「文化資産の循環と持続可能性」の3点を指摘。その上でアウトリーチについて、地域創造が昨年度実施した調査結果(*)を基にプログラム実施後に児童の満足度、教職員の評価が高まっていることなどを紹介。最後に、植物の生態系になぞらえ、こうした事業を自律的に継続するための方策としてホールが仲介役を果たした色々な「文化生態系の小さな循環」を構築する必要性について訴え、参加者にエールを送っていました。

 

*「地域文化施設におけるアウトリーチ・ワークショップの成果や効果の検証と評価に関する調査研究」(令和5年3月)
地域創造の事業「おんかつ」「ダン活」等に参加経験があり、長期的・継続的に地域の小中学校へのアウトリーチに取り組んできた調査協力館(6館)とアウトリーチ先の小中学校児童生徒、教職員へのアンケートなどを実施。
https://www.jafra.or.jp/library/report/

1年遅れの新規登録アーティストお披露目

 コロナ禍により1年遅れのオーディションで選考された登録アーティストたちは、昨年10月にアウトリーチプログラムについて考える研修を受講(レター2022年11月号参照)。小学校での実地研修を経て、18日に行われたトッパンホールでの公開プレゼンテーションに臨みました。
 トップバッターは作曲家、編曲家としても活動する閑喜弦介さん(ギター)。「身体で音楽を能動的に感じてほしい」と話し、卓抜した技術でクラシック音楽、映画音楽、日本の歌謡曲まで披露しました。ピアニストでは、昭和音大ピアノアカデミーに在籍中という初々しい水谷桃子さんがストーリーでイメージを伝えながら『シンデレラと王子のワルツ』などを演奏。また、実力派の今田篤さんは3曲のみの構成で、右手が黒い鍵盤のみを弾くショパンの『黒鍵のエチュード』でスタートし、『トルコ行進曲』をモーツァルト版、ジャズ風に編曲したファジル・サイ版、超絶技巧のアルカディ・ヴォロドス版で弾き比べ。自然体のトークと演奏でピアノの魅力を存分に伝えていました。
 声楽家では芝居心のあるテノールの西村悟さんとソプラノの上田純子さんが登場。西村さんは、音楽を五感で味わう歌のレストラン「ル・モンド」の総料理長に扮して世界各国から取り寄せた歌のフルコースを披露し、会場を大いに湧かせていました。上田さんは、声楽家を志した自らの歩みを振り返り、アカペラで始まる『アメージング・グレイス』などで言葉をもつ音楽と声の魅力を伝えていました。
 そして、永野雅晴・仁美さん夫妻によるパーカッション・デュオのカメハはタンバリンやウッドブロックなどの馴染み深い楽器や二人羽織のように演奏するスネアドラム、マリンバの上にカスタネットを置いて曲弾きするセジョルネの『ハムシン』まで息のあったパフォーマンスを展開。最後を締めくくったモデトロ・サクソフォン・アンサンブルは異なる個性をもつ4種類のサクソフォン(ソプラノ・アルト・テナー・バリトン)で構成される四重奏についてアピールしていました。

企画検討会も白熱

 最終日には今年度のおんかつ事業に参加する15館の担当者とコーディネーターがアウトリーチの企画を考えるグループディスカッションが行われました。予め地域資源シート(ホールと関係がある・関係を築けそうな要素を教育・福祉・歴史・文化・食・観光・産業・その他の領域について整理するシート)を記入して研修に臨んだ担当者は、地域との関係を見据えて企画を具体化していきました。
 「歌のレストランで地元の高校と協働してみたい。これをきっかけに高校と継続的に何かできるのではないか」「地元の食材を販売している道の駅でコンサートをやりたい」「機動力のある楽器なら商店街の中にある映画館でアウトリーチができる。これをきっかけに商店街との繋がりもつくりたい」などなど、アイデアが溢れていました。
 今年度のおんかつ事業は秋から本格的に始まります。詳細は当財団ホームページやレターで発表しますので、ぜひ興味をもっていただければと思います。

令和5年度「公共ホール音楽活性化事業」全体研修会スケジュール

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2023・2024年度公共ホール音楽活性化事業登録アーティスト

  • 今田篤(ピアノ)
  • 水谷桃子(ピアノ)
  • 上田純子(ソプラノ)
  • 西村悟(テノール)
  • 閑喜弦介(ギター)
  • カメハ(パーカッションデュオ)
  • Modétro Saxophone Ensemble(モデトロ・サクソフォン・アンサンブル/サクソフォン四重奏)

令和5年度「公共ホール音楽活性化事業」参加団体一覧(全15団体)

  • 秋田県能代市
  • 山形県鶴岡市
  • 新潟県魚沼市
  • 富山県氷見市
  • 山梨県笛吹市
  • 長野県須坂市
  • 長野県安曇野市
  • 岐阜県大野町
  • 三重県津市
  • 大阪府茨木市
  • 兵庫県養父市
  • 兵庫県市川町
  • 岡山県久米南町
  • 福岡県那珂川市
  • 沖縄県名護市

公共ホール音楽活性化事業に関する問い合わせ

芸術環境部 矢嶋
Tel. 03-5573-4064

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